障がいきょうだいの「親亡き後」の費用を考える:公的支援制度を理解し、きょうだいの負担を軽減する
障がいのあるきょうだいを持つ皆様にとって、「親亡き後」の生活やケアにかかる費用は、大きな不安の一つであると拝察いたします。誰が、どのようにその費用を負担していくのか、一人で抱え込んでしまう方も少なくないかもしれません。
しかし、日本には障がいのある方を支えるためのさまざまな公的支援制度が存在します。これらの制度を理解し、適切に活用することで、経済的な負担を軽減し、きょうだい自身も安心して将来を設計することが可能になります。
この記事では、親亡き後の障がいきょうだいの生活を見据え、特に「費用」に焦点を当て、利用可能な公的支援制度の概要と、きょうだいとして今からできる準備について解説いたします。
障がいのあるきょうだいの生活費・ケア費用の全体像
親亡き後、障がいのあるきょうだいの生活には、主に以下の費用がかかる可能性があります。
- 生活費全般: 食費、住居費(グループホームなどの利用料を含む)、光熱費、被服費など。
- 医療費: 病気や怪我の治療費、定期的な通院費、薬代など。
- 福祉サービス利用料: 訪問介護、デイサービス、短期入所(ショートステイ)などの障害福祉サービス利用にかかる自己負担額。
- その他: 補装具や日常生活用具の購入費用、交通費、娯楽費など。
これらの費用を全てきょうだいが負担しなければならないと考えると、その重圧は計り知れないものとなるでしょう。しかし、これらの費用の一部、あるいは多くを公的な支援でまかなうことができる場合があります。
公的支援制度を理解し、経済的負担を軽減する
障がいのある方が利用できる主な公的支援制度には、以下のようなものがあります。これらの制度を賢く利用することが、きょうだいの経済的負担軽減につながります。
1. 障害年金:生活を支える重要な柱
障害年金は、病気や怪我によって生活や仕事に支障がある場合に支給される年金です。障がいのあるきょうだいの安定した収入源として、非常に重要な役割を果たします。
- 対象: 国民年金または厚生年金に加入しており、一定の障害状態にある方が対象です。障がいの種類や程度、年金の加入状況によって、障害基礎年金と障害厚生年金があります。
- 支給額: 障害の等級や加入期間によって異なりますが、単身での生活費の一部、あるいはほとんどをカバーできる場合があります。
- 申請: 申請には医師の診断書や病歴・就労状況等申立書などが必要となり、複雑な手続きが伴うことがあります。きょうだいがサポート役となり、必要な書類を準備したり、年金事務所や市区町村の窓口に同行したりすることが考えられます。
2. 医療費・福祉サービス利用料の助成・軽減
障がいのある方には、医療費や福祉サービス利用料の自己負担を軽減する制度が設けられています。
- 自立支援医療制度: 精神疾患の治療(通院)、身体障害の機能回復のための医療(更生医療)、小児期の障がいに対する医療(育成医療)に関して、医療費の自己負担割合が原則1割に軽減される制度です。所得に応じて月ごとの負担上限額が設定されており、それ以上の支払いは不要となります。
- 高額医療費制度: 医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、ひと月で自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が支給される制度です。障がいのある方だけでなく、全ての方が対象となる制度ですが、医療費が高額になりがちな場合には特に重要です。
- 高額障害福祉サービス費制度: ひと月に支払った障害福祉サービスの利用者負担額(食費や光熱水費などの実費は除く)が、世帯の所得に応じた負担上限額を超えた場合、その超えた額が支給される制度です。これにより、サービスを安心して利用できるようになります。
- 補装具費・日常生活用具給付: 義手や義足、車椅子などの補装具や、特殊なベッド、入浴補助具などの日常生活用具の購入・修理費用の一部または全額を公費で助成する制度です。
3. 所得に応じた負担軽減措置
多くの公的支援制度には、所得に応じた負担軽減措置が講じられています。特に、障がいのあるきょうだいが生活保護を受けている場合や、住民税非課税世帯である場合には、自己負担額が大きく軽減されることがあります。これらの制度は、きょうだい自身の収入や貯蓄状況にも影響するため、きょうだい全体の家計状況を踏まえて検討することが大切です。
経済的な側面からの相談先
これらの制度は複雑であり、個々の状況によって利用できる制度や手続きが異なります。一人で判断せず、専門家や地域の相談機関に相談することが、最も確実で効率的な方法です。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: 地域の公的支援制度に関する最も基本的な相談窓口です。まずはここから情報収集を始めるのが良いでしょう。
- 障害者相談支援事業所: 障がいのある方やその家族からの相談を受け、必要な情報提供やサービス利用計画の作成支援を行う専門機関です。親亡き後の生活全般や、それに伴う費用に関する相談にも応じてくれます。
- 社会福祉協議会: 地域住民の福祉活動を支援する団体で、生活困窮者への支援や、福祉サービスに関する情報提供を行っています。
- ファイナンシャルプランナー(FP): きょうだい全体のライフプランニングや資金計画、資産形成に関する専門家です。障がいのあるきょうだいの費用だけでなく、ご自身の老後資金を含めた包括的な相談が可能です。障がいのある方のサポートに詳しいFPを探すことをお勧めします。
今からできる準備と話し合い
親亡き後を見据えた費用の準備は、一朝一夕にできるものではありません。今から具体的な行動を起こすことが重要です。
- 現状把握と情報収集: まず、障がいのあるきょうだいの現在の収入(年金など)、支出、利用しているサービス、そして親御様が負担している費用を正確に把握することから始めましょう。
- 親御様との話し合い: 親御様が元気なうちに、親亡き後のきょうだいの生活や費用について、具体的な希望や考えていることを共有することが非常に重要です。きょうだいを含め、家族全員で話し合う機会を設けてください。
- 専門家を交えた検討: 前述の相談先を活用し、具体的な制度の利用方法や、将来にわたる資金計画について専門家の意見を仰ぎましょう。
最後に
障がいのあるきょうだいの「親亡き後」の費用に関する不安は、多くのきょうだいが共通して抱える課題です。しかし、公的支援制度を理解し、適切な準備と相談を行うことで、その不安は軽減され、具体的な道筋が見えてくるはずです。
一人で抱え込まず、情報収集を行い、家族や専門家、そして私たち「成人きょうだいの輪」のようなコミュニティの仲間たちと共に、未来を語り合い、支え合いながら進んでいくことが何よりも大切です。この場所が、皆様の支えとなることを心より願っております。