きょうだいの未来を守る成年後見制度:親亡き後の財産管理と生活支援
成人きょうだいの「親亡き後」を見据えた成年後見制度の活用
親御様がご存命のうちに、成人された障がいのあるきょうだいの将来について考え始めることは、多くのきょうだいにとって大切な課題です。特に「親亡き後、きょうだいの生活や財産はどうなるのか」という不安は尽きないことでしょう。そのような中で、きょうだいの権利と財産を守り、安定した生活を支えるための重要な制度として、「成年後見制度」があります。この制度は、ご本人の意思を尊重しながら、財産管理や契約などの法律行為を支援するものです。
本記事では、この成年後見制度が親亡き後の備えとしてどのように活用できるのか、その具体的な内容と役割について詳しく解説いたします。
成年後見制度とは:障がいのあるきょうだいの権利を守る仕組み
成年後見制度は、精神上の障がいなどにより判断能力が十分でない方を保護し、支援するための国の制度です。この制度は大きく分けて、本人の判断能力が既に不十分な場合に家庭裁判所が後見人等を選任する「法定後見制度」と、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめご本人が後見人となる人を契約で決めておく「任意後見制度」の二種類があります。
- 法定後見制度: 補助、保佐、後見の3種類があり、判断能力の程度に応じて支援の範囲が異なります。最も重いのが後見で、財産に関する全ての法律行為を後見人が本人に代わって行うことができます。
- 任意後見制度: 本人が十分な判断能力を有しているうちに、将来判断能力が低下した場合に備え、誰にどのような支援をしてもらうかを契約(任意後見契約)で定めておく制度です。ご本人の意思を最大限に尊重できる点が特徴です。
親亡き後の財産管理と生活支援における成年後見人の役割
成年後見人は、ご本人の財産を管理し、介護や医療に関する契約、住居に関する契約など、様々な法律行為を本人に代わって行います。これにより、ご本人が詐欺被害に遭うことを防いだり、必要なサービスを適切に受けられるよう支援したりすることが可能になります。
具体的な役割の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 財産管理: 預貯金の管理、年金や給付金の受領、公共料金や家賃の支払い、不動産や有価証券の管理など
- 身上保護: 介護サービスや医療サービスの利用契約、施設への入所契約、住民票の取得など。ただし、ご本人の身体介護や身の回りの世話を行うこと自体は、成年後見人の職務ではありません。ご本人の意思を尊重し、最適なサービスを選択・契約することが主な役割です。
成年後見制度は、親亡き後もきょうだいが安定した生活を送るための法的な基盤を提供し、安心して暮らせる環境を整える上で極めて重要な役割を担います。
制度利用の流れと費用:具体的な手続きの準備
成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申し立てが必要です。
- 相談: まずは地域の自治体窓口、地域包括支援センター、社会福祉協議会、弁護士、司法書士など、専門家への相談から始めることが推奨されます。
- 申し立て書類の準備: 家庭裁判所に提出する申し立て書や添付書類(戸籍謄本、住民票、診断書、財産目録など)を準備します。
- 家庭裁判所への申し立て: 必要書類を揃え、家庭裁判所に申し立てを行います。
- 審理・調査: 家庭裁判所が申し立て内容を審理し、本人への面接や親族への意向確認などを行います。
- 後見人等の選任: 家庭裁判所が最も適任と判断する者を後見人等として選任します。申立人や親族が後見候補者として名乗り出ることもできますが、最終的な決定は裁判所が行います。
費用について
申し立てには印紙代、郵便切手代などの実費がかかります。また、医師の診断書作成費用や鑑定費用が発生する場合もあります。 後見人が選任された場合、後見人にはその職務に対する報酬が支払われます。この報酬は、管理する財産の額や職務の内容に応じて家庭裁判所が決定します。専門職(弁護士、司法書士など)が後見人となる場合は月額2万円程度からとなることが一般的ですが、具体的な金額はケースによって大きく異なります。親族が後見人となる場合でも、職務内容によっては報酬が認められることがあります。
きょうだいが後見人になる場合と専門職に依頼する場合
成年後見人には、親族がなることも可能ですし、弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門職が選任されることもあります。
- きょうだいが後見人となる場合:
- メリット: ご本人の性格や生活習慣をよく理解しているため、きめ細やかな支援が期待できます。精神的な安心感も大きいでしょう。
- 考慮点: 財産管理や法的手続きには専門的な知識が必要となる場合があり、きょうだい自身の負担が大きくなる可能性があります。また、きょうだい間の意見の相違が生じる可能性も考慮する必要があります。
- 専門職が後見人となる場合:
- メリット: 専門的な知識と経験に基づいて、公正かつ適切に職務を遂行します。きょうだい間の感情的な対立を避けることができます。
- 考慮点: 報酬が発生するため、費用負担が生じます。ご本人の日々の細かな状況をきょうだいほどには把握できない可能性があります。
どちらの選択肢も一長一短がありますので、家族で十分に話し合い、ご本人にとって何が最善か、そしてきょうだい自身の負担も考慮しながら慎重に検討することが重要です。
親亡き後を見据えた総合的な準備の重要性
成年後見制度は重要な選択肢の一つですが、親亡き後の備えは、この制度だけで完結するものではありません。例えば、親御様の遺言書作成、家族信託の活用、生命保険の設計など、様々な方法を組み合わせて、多角的にきょうだいの将来を守る体制を築くことが有効です。
これらの制度を検討する際には、複数のきょうだいがいらっしゃる場合、きょうだい間の役割分担や意見調整も大切なプロセスとなります。早めに話し合いの場を設け、それぞれの状況や思いを共有し、協力して具体的な計画を立てることが、親亡き後の安心につながります。
一人で抱え込まず、コミュニティの力を活用しましょう
親亡き後のきょうだいのケアについて考えることは、非常にデリケートで複雑な問題であり、一人で解決策を見出すことは容易ではありません。具体的な制度の活用方法や、他のご家族がどのように準備を進めているのかといった情報は、多くのきょうだいにとって貴重な知見となります。
「成人きょうだいの輪」は、同じような悩みを抱える方々が経験や情報を共有し、互いに支え合うためのコミュニティです。成年後見制度に関することや、親亡き後の具体的な準備について、疑問や不安に感じていることがございましたら、ぜひこの場で語り合い、情報交換を深めていただければ幸いです。専門家への相談を促しつつ、このようなコミュニティの場が、皆様の不安を和らげ、具体的な行動への一歩を踏み出すきっかけとなることを願っています。